- Vol.39 28年前の私からのプレゼント ―あなたへのおくりものー
- Vol.38 うーん…途中まではいいんだけれど、ちょっと違う??
- Vol.37 発展と進歩
- Vol.36 音楽はすばらしい
- Vol.35 心に届く言葉、届かない言葉
- Vol. 34 2020年の仕事はじめ
- Vol. 33 That’s the way it is.
- Vol.32 徒然なるままに
- Vol.31 勉強ってなあに?
- Vol.30 京都の春
- Vol.29 正確な日本語?
- Vol.28 引っ越し、執筆、講演、そして引っ越し
- Vol.27 〇月×日
- Vol.26 It's not easy to write textbooks.
- Vol.25 Even a pig climb a tree when flattered!? 豚もおだてりゃ木に登る
Vol. 34 2020年の仕事はじめ
あけましておめでとうございます。
あっという間に1月も半ばになってしまいました。
孫たちと楽しく過ごしたお正月の余韻に浸って、ゆっくりと優雅な時を過ごしていた私の元に、東京からアプリコット出版の編集長の新井顕子氏がやって来ました。彼女の大きなキャリーバッグは今回の仕事の懸案事項ではち切れそうに膨れ上がっていて・・・。
「先生、まず、今年はWELCOME to Learning World YELLOWの改訂です。それにWELCOME PINKのActivity Book 。5月には「英語を子供に教えるための講座」が始まりますので、そのテキストの編集もあります。この講座は秋にも開催しますよね?」
彼女は引きずってきたキャリーバッグの中からそれぞれの仕事の課題とそれに関する資料を次々出してきて、まるで手品師のように不敵な微笑みを浮かべる…
その後、これから刊行するもの、すでに刊行したものに関して矢継早に質問開始。
「再確認させてください。BRIDGE(Book 4)の位置づけは?どうしてBook 1, 2, 3に出てきた活動やチャンツがまた出てくるのですか」と新井氏。
「決まった日常のやり取りだけでなく、自分の意見をちゃんと相手に伝えるには文法の指導は欠かせません。日本では文法が、“コミュニケーションで使う言語”とはかけ離れて教えられてきたために、児童英語教育では文法教育は敬遠されがちですが、機能から文の規則を教えていくことはとても大切です。それも、高学年になって初めてやるのではなくて、WELCOMEシリーズやBook 1,2,3の時にコミュニケーション活動の中で使った英語や、定着のために暗記したチャンツや歌などが十分に子供達の体の中に溜まってから、「帰納的」に文の規則をorganize(整理)させることが次のステップに行く大きな礎になります。Organizeして、規則を理解した上で、その文を応用して自分のことを言ったり、否定形や疑問形の作り方の練習をワークブックでできるように作りました。」
「教える時のコツは?」と新井氏。 「アクティビティやチャンツはそれまでに何度もしているから、使えるかどうか確認するくらいで、これ覚えてる?“Do you remember this chant? Let’s see if we can recite it,OK?” って感じで。その後、その文がどんな構造になっているか生徒の気づきを引き出すように話し合いながらLet’s Study のページに移ります。先生がただ解説するのではなくて、生徒が文の規則に気づくようにオーガナイズするのがポイント。」
「英語でですか?日本語でですか?」と新井氏。 私:「どちらでも結構です。Book 3まで済んでいるのなら是非英語を使ってください」
「英語で文法を教えるのは難しいのでは?」 私:「その為の英語は指導書に乗せています」
「英語を文法で教えて生徒は理解できるのですか?」「日本語がわからない外国人の先生は?」 私:「先生が英語で授業をしても、生徒はテキストに記載された日本語があるので理解できます。英語で教えることは先生にも、生徒にとっても良い機会になると思います。もちろん、日本語ができない先生は英語で教えてください。子供達はテキストの日本語を見て十分理解できます」
「Let’s Writeの意図は?」—–「気づいた文型(form)を使って自分のことを書けることが目標です。だから設問は、生徒個人を無視したような、この文を否定形にしなさい、とか、疑問形にしなさいといった設問ではなく、“Write each sentence. If they are not true for you, rewrite them using “not”にしたでしょう。
「書いたら終わりですか?」
「いや、自分のことに関する設問なので、書いた内容について先生が質問を加えて、そこからクラスで会話を拡張できるようにしています」
「たとえばどんな質問?」 ・・・・私はだんだん腹が立ってきて、「書いたでしょう。それに対する質問例をたくさん指導書に!」
いやはや新井氏はプロの編集者です。たとえ自分が知っていることでも、もう一度著者から言わせる。それが現場の先生に一番理解してもらいやすいことを知っているから…(腹黒い奴!!) 彼女の質問はまだまだ続きます。時々、わざと私を苛立たせる技術を散らつかせながら。
「ラーニングワールドシリーズ最終巻のTHE FUTUREはReadingのためのテキストですか?」
(その質問で中本、ムカッと来る) 「そうじゃないことぐらい解っているでしょう。私は元々、中学3年生で自分で情報を取り、自分の中で消化し、自分と人の意見を交換させながら、自分を発信させていく子供達を育成するというDestinationを定めていて、そこへ到達するために幼児から発達段階に応じて「何を」「どんな手段で」教えるかを熟考してこのシリーズを作ってきたのであって、幼児・児童英語教育だけに興味があるのではない!!!」
*教材のタイトルとして、Learning World Book 6 THE FUTURE にTHEを入れることにこだわったのは、漠然とした”未来“ではなく、ラーニングワールドシリーズ10巻を通して「到達する未来」の意味を大切にしたかったからです。
(40年近く前、私がこの業界で認められた最初の学会発表―JASTEC(日本児童英語教育学会)では、児童英語の学会だと知った上で、児童英語教育を受けて中学生になった生徒たちを引き連れて実践発表をしました。当時はビデオによる発表ではなく、実際に中学生を10人ほど連れて行って、学会会場でぶっつけ本番で授業を先生方に見せ、その後、授業の内容を解説するという発表形式でした。その時私は、歌ったりゲームをする楽しい授業ではなく、児童英語教育の到達目標、結果を示した発表をしたかったのです。)
「だからぁ (まさに新井氏の思うツボ。私はだんだん興奮し、声を荒げて自分の考えをわざとゆっくり言うことに。) THE FUTUREは単なるReading教材ではなくて、情報を取って、情報を取るのは文からだけではないでしょう。書かれたもの、見るもの、そして聞くもの。それらの情報を母国語と英語で自分の中で消化して、それを理論的にまとめて自分の考えを構築し、効果的に相手に伝えることができる」
「そのためには先入観を持たないで自分を臆せず表出できることが重要で、それがラーニングワールドシリーズの到達目標でしょう。(自分で編集した『実践家からの児童英語教育法 解説編』の「国際コミュニケーションを育てる活動」pp.38-44 をもう一度読み直せ!!!)」
「ラーニングワールドシリーズは、ある年齢では楽しく、ある年齢では知的好奇心を刺激し、学ぶ楽しさを体感させながら、先取り教育ではなく、根の部分をしっかりと育てながら子供達がその最終目的に達することができるように構成されたシリーズです。」
ここまで一気に喋ったところで、してやったりと彼女が笑ったのを私は見逃しませんでした。その後も2人の禅問答のような駆け引きは暫く続きました・・・・。
2日間のバトルを終えて、芦屋駅前の居酒屋で2人で乾杯。この後、やっと静かな日常に戻ることが出来ると安堵していた私でしたが、東京への帰り際、去っていく前に新井氏が一言、「あ、先生。言うの忘れていましたけれど、今月のエッセイ、明日の朝くださいね」 あぁ~!!
本年もよろしくお願いします。