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なかもとと友かな

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ご存じアプリコット出版筆頭著者。 元AIM English Studio (大阪・堺市)主宰。 Learning World series、『キッズ英語絵本シリーズ』等アプリコット出版刊行物多数。 幼児・小・中・高・大学・大人と全年齢層の英語教育実践家で児童英語教師のカリスマ的存在。 APRICOT児童英語教師養成講座講師。Learning World 認定校スーパーバイザー。
  • Vol.4 「勉強ぎらい」「英語ぎらい」の大学生との1年  

    「箸にも棒にも掛からないような俺たちに一年間付き合ってくれてありがとう。先生がいなければ、一生、英語は大嫌いで終わっていたと思う」

     

    後期試験が終わって教室から出ていく時、S君はそう言って握手を求めてきました。野球部の巨漢のA君をはじめ、クラス全員とbig hug!!
    決してレベルが高くない某大学でスポーツ/メデイア専攻の生徒の中で英語のレベルが7クラス中下から2番目のクラスを受け持って1年。 後期の最後の授業です。 勉強大嫌い。テスト大嫌い。4月の最初の講義で学生たちと接してわかったことは、みんな英語が大嫌いで大の苦手。勉強の仕方もわからない。 中学、高校の英語の先生に見放され、苦痛としか思わずに6年間英語の授業を受けてきた学生たち。 必須科目なので全員が、いやいや受講していました。
     

    最初の授業で、私が彼らに約束したのは、「文法、書き換え、スペルのテストはしない」「人と比較しない」「使える英語を学び、共に楽しめるような授業にする」ことでした。
    使用したのは Learning World Book 3。彼らに変化が大きく表れたのは、前期試験以降でした。
     
    前期試験の課題は、
      ・Learning World Book 3 の Achievement Targets を全部クリアすること
      ・クラスの前で、自分と自分の尊敬する人についてスピーチをすること
      ・テキストの各左ページを暗唱または上手に読めるようになること     です。

     

    図7リスト Bk3 アチーブメントターゲット抜粋

     

    APRICOT から発売されているゴールドブルーのシールも駆使しました。“おっさん”に近い体育会系男子学生や金髪、ピアスの女子学生たちが、一生懸命チャンツを暗唱している姿は本当に楽しいものでした。 結果、全員前期の課題を達成!  彼らに自信がつき、それに伴い英語が好きになってきた様子がうかがわれました。
     
    後期になって英文講読を導入しても拒否反応は起こらず、内容に興味を持って英文を読む習慣がつくようになりました。 教材は、学生たちが内容に興味を持つもの、すでに知っている内容の物を毎回手作りで用意しました。 (一番、食いつきがよかったのは、アニメ、ワンピースのキャラクターの説明を英文にしたものでした)。 明け方まで焼き鳥屋とパチンコ屋でアルバイトしているD君、S君をはじめ、全く精気の無い顔をして受講していた学生達が、いつのまにかイキイキした顔で講義を受けるようになり、学習における達成感の重要性、 ラーニングワールドの Achievement Targets が大学生にも非常に有効であることを発見したのでした。
     
    授業が終わると「お疲れーっす!」と教室を出ていく学生たちに、「ちょっと待ちなさい。その言葉は目上の人に言う言葉ではない。“ありがとうございました”でしょう」と注意。授業内容は学生のレベルに合わせても、先生はけっして友人化してはならない。大人の威厳はしっかりと保ち、示すべきです。
    「それでも大学の授業?」なんて言わないでくださいね。 「難解な授業より、学生が少しでもレベルアップする授業を」 それが私の方針です。

    Vol.3 ラーニングワールド改訂で、私が一番こだわったこと。  

    2006年から始まり足かけ4年にわたって携わってきたLearning World Book 1,2,3の改訂がやっと終わりました。テキスト、ワークブック、音声、カード、教具、指導書と、新刊ではないけれど1冊1冊緻密な打ち合わせと時間がかかる膨大な作業です。
    制作スタッフも、著者である中本、内容を吟味し先生方のニーズに合ったものかを調べる編集部、個々の絵を描くイラストレーター、イラストを総合的にまとめるデザイナー、録音に関わるタレント、録音からCD制作まで行うスタジオのスタッフ、ミュージシャン、印刷、製本と本当に多くの人が1冊のテキストに関わっています。改訂版の指導マニュアルには、使い方が一目でわかるように、コマ送りの写真を入れましたので、撮影部隊としてカメラマンやモデルも加わりました。

    図5 指導書カラー 

     

    この改訂で私が一番こだわったのは、ラーニングワールドの基幹である、コミュニケーションタスクを持つ活動を各レッスンに入れること(Task-based Learning)です。
     
    『英語教育用語辞典』によりますと、Communication Taskの条件としては次のものがあります。

    ・学習の目標として到達すべき特定の到達点や目標が設定されている

    ・目標言語を使って情報交換をしなければ、タスクを遂行することができない

    ・実際のコミュニケーションと同じ、もしくは似ている作業である

    ・タスクの内容は現実の社会生活と深く関連したもので、学習者の知的関心に合ったものである。

    ・タスクを主体的に行うのは教師ではなく学習者

     

    わかりやすくするため日本の英語教育で取り入れられているPPPと比べながら説明しましょう。
    PPPでは、まず教師がレッスンのターゲットの文(文法)を提示します(Presentation stage)。次に、先生の後についたり読んだり、ペアになって音読練習をターゲットの文が正しく言えるようになるまで行います(Practice stage)。 この活動は、パターンプラクティスや文の前半と後半をマッチさせて文を作る、質問して文やダイアログを完成させるような作業です。3つめのProduction stageはターゲットの文や既習の文を使う練習です。
     
    一方、Task-based Learningでは、タスクを行うことがレッスンの目標となります。
    目標を解くために必要な新出、既習の語彙、文を提示し、タスクについての説明をします(Pre-task)。情報交換をしながらタスクを解きます。結果をクラスで発表する準備をし、クラスで発表します(Task-cycle)。最後にタスクの解決過程で使った語彙、文を分析し練習します。
     
    ラーニングワールドBook1, 2, 3 の改訂版では、このTask-based Learning を基に、日本の子ども達に合うタスクを作りました。
    たとえば、

    ・ターゲットの文(語彙)を使って質問しながら1つの情報源を当てる活動。
    ・みんなで意見を出し合って作り上げる活動。
    ・3人以上の人が各自違った情報を持っていて、それらを合わせて一つの答えを出す活動など
    です。

     

    その後、生徒1人1人がターゲットの文を使って自分のことを発表します。Post-task はターゲットの語彙や文の定着をチャンツで効率よく覚えられるように工夫しました。

    Jane Willis のFramework と 中本が考えた日本の子ども達のためのFrameworkは次の通りです。

    クリックで拡大

    実際の状況を無視した、ターゲットセンテンスのパターンプラクティス中心のテキストが今でも大半を占めていますが、使用目的のない言語はありません。 Meaningful purposeを持たないパターンプラクティスをどれだけ練習しても、英語を使えるようにはならないのです。ここに日本の英語教育の問題点が隠されているのかもしれません。

    Vol.2 「甘やかす」VS. 「安心させる」 

    昨年から大学院で勉強を始めました。なぜ今さら勉強するのか? とよく聞かれます。教育心理学の理論を勉強することによって、今まで自分が経験を通じて信じてきたことを立証するためです。ずっと、本を書いたり人に講演をしたりと「出す」ことをしていたので、「学ぶ」ことはとても新鮮で楽しみです。
     

    長年、児童英語教育に携わっていますと、子ども達のアサーション、つまり自分の考え、欲求、気持ちなどを率直に、正直に、その場の状況に合った適切な方法で自己表現できる能力の大切さがわかります。我々は英語という「教科」を教えているのではなく「言語」を教えているので、ただゲームをしたりお遊戯をするだけのレッスンではなく、しっかりとした自分の言葉を持つ子ども達を育てなければなりません。子ども達一人一人の日常の行動や考えの規範が重要です。
     

    下の図は、アメリカ、中国、日本の大人を回答者とした「子どもの自由意志」に関するアンケートの結果です。

    1 2 3
    本人の自由 いけない 本人の自由 いけない 本人の自由 いけない
    親に反抗する 79% 21% 15.8% 81.5% 18.8% 80.3%
    学校の先生に
    反抗する
    84.5% 15.2% 16.1% 81.5% 14.7% 84.4%
    タレントの真似 94.5% 5.1% 66% 31.7% 38.5% 61%
    学校の制服の変形 91.6% 8.3% 24% 73% 38.1% 60.9%

     

    例えば1の国では親に反抗することは79%の人が本人(=子ども)の自由で、21%が親に反抗することはいけないと答えていますが、2の国では15.8%が、3の国では18.8%が子どもの自由と答えています。国によって答えがずいぶん異なりますね。
     
    では1、2、3のそれぞれの国名を当ててください。
    …答えは、1が日本、2がアメリカ、3が中国です。
     

    日本の大人が他の2つの国に比べて、子どものしつけに対して非常に甘いことがわかります。よくお母さんから「自立を促すために子どもの意思に任せます」という言葉を聞きますが、これは判断能力がまだできていない子どもに判断させていることになり、逆に言えば親が、子どもを育てる責任から逃れているにすぎません。
    子どもに家庭や社会の規範をしっかりと身に付けさせるのが親の役目です。「良い」親からも「だめな」親からも良い子どもは育ちます。一番いけないのは「責任放棄を“放任主義”と履き違えている親」と「迷う親」なのです。
     

    しっかりとした判断力を持つ子どもに育てるには、まず大人(親、先生、学校)が、何が正しくて何が悪いのかという基準を、責任と自信(権威)を持って子どもに示していくことが大事です。甘やかすという英語はspoilを通常使用します。Spoilは「駄目にする」「腐らせる」という本来の意味を持っていることは、皆さんもご承知ですね。
     

    大学院の学校臨床心理学の授業では、子どもの人格形成は、まず5歳で定まることを学びました。5歳までに家族から100%愛され、受け入れられる経験をした子どもは、その人格にいつでも帰ることのできる「枠」ができるそうで、その枠ができていれば成長過程で不登校や社会不適合な行動が起こってきても、必ず直るそうです。また教育心理学特論では、対人関係能力調査で、自分の家族に対して肯定的な安心感を持つ子どもは、他者を受容する能力が育つことを学びました。
     

    最近、 「しつけ」と称する子どもへの虐待が問題になっていますが、幼い時に親がきっちりとした“心のhome”(子どもにとって親という名のシェルターかもしれません)を作り、その上でしつけをしなければなりません。私も過去30年間、子ども達を叱るには、まずその子とのゆるぎない信頼関係を築いた上で、叱ることを実践してきました。
    23、24歳の大学院生の皆さんと机を並べつつ、「ふん、ふん、やっぱりそうか!」と1人、にんまりしながら授業を受けています。

    Vol.1  「あぁ、私の元太くんが壊れていく・・・」  

    AIMを“卒業”した私は大学院に通う傍ら、自宅で中学生を3人だけ教えています。丸いダイニングテーブルに3人が、私から同じ距離で座ります。均等にそれぞれを教えられるのは定員3人だと思っています。
     
    “Scaffolding ”という言葉を教育学を専攻した人ならだれでもご存知だと思いますが、一人ひとりの生徒の能力、性格、環境までを把握し、それぞれの子ども達が自分のペースで一歩一歩進んで行く“足場”を作ることです。生徒一人ひとりへの教え方、課題の難易度が違って当然です。
    「scaffoldingが自分の満足のいく質で行うことができる人数は3人」。これが私の結論です。ごめんなさい。小学校の先生や塾の先生から「何を夢みたいなことを言ってるんだ!」とお叱りを受けそうですね。卒業後の私のささやかな楽しみですのでご容赦ください。
     
    さて話は元にもどります。「私の大切な元太くんが壊れていく…」
    元太くんは小学1年生の時から英語を習っています。5年で英検5級に合格しました。リスニング、スピーキングにおいては、4級以上の実力があると思います。ところが、私立の中学に入ってからは、文法やスペリングを山のように覚える授業が続きます。その後、クイズのような問題満載のテストが待っています。
     
    「彼女はだれですか」をいう問題を見て「あれ? さっきは、Who is this? で正解だったのに、下線が2つしかない!」と元太くん。「そうね。だからWho is をWho’sに省略しなければ書くことができないね」と私。「どっちでも同じ意味なのに。どっちでも正解なのに」と元太くん。
     
    「下線部が答えの中心となる疑問文を書きなさいってどういう意味?」
    My name is Ann Green.の下線部を問うという問題が理解できなかったようです。私が説明すると、「??…最初から名前はAnn Green とわかっているのに、なぜわざわざ質問するの?」…
     
    次の問題は「下線部を複数形にして書き換えなさい」That boy isn’t my brother.
    「まず、boyをboysに替えると、thatがthoseになり、isn’tもaren’t にしなければいけないし、あっそうだ、brotherもbrothersにしなければいけない」と元太くん。
    このような問題ばかりをしていると、だんだん頭がこんがらがってきて、たいてい1箇所か2箇所は間違ってしまいます。
     

    次の質問文に対する正しい答えを選びなさい。
    Does Mary like science?

    【1】 Yes, she is.  【2】 Yes, she does.  【3】 No, she don’t.

    つい最近までこのような問題で、「だいたい、メアリーってだれかわからないのに理科が好きかどうかわかるはずがない!」と文句を言っていた元太くん、中学で英語の勉強をするようになってまだたった3ヶ月なのに、もう、「先生、doesがついていたら、doesがついている答えを探せばよくてあとは何が書いてあっても見なくてもいいんだよ!」と自慢気に言うようになりました。
     
    私と同じように大学院で勉強をしている北村先生(元私立小学校英語講師、現吹田市英語教育アシスタント)と共に児童英語教育を5年以上受けた中学1年生を対象にアンケート調査をしたところ、小学校の時英語が得意だと思っていたのに、中学入学後にそう思えなくなったという生徒が全体の34%もいました。
     
    中学英語ってなんだろう。元太くんには言語としての英語の実力は十分あります。彼にLearning World for TomorrowのUnit 1-3のリスニングテストをしたところ、まさに“a piece of cake”
    いとも簡単に全問正解しました。でもその実力を壊していくような授業が続きます。そして残念なことに1学期が終わった今、彼はすっかり中学英語に慣れてしまい、英語が言語であることを忘れ始めています。元太くんが壊れていく!
    日本の英語教育は本当にこれで良いのでしょうか。

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