- Vol.39 28年前の私からのプレゼント ―あなたへのおくりものー
- Vol.38 うーん…途中まではいいんだけれど、ちょっと違う??
- Vol.37 発展と進歩
- Vol.36 音楽はすばらしい
- Vol.35 心に届く言葉、届かない言葉
- Vol. 34 2020年の仕事はじめ
- Vol. 33 That’s the way it is.
- Vol.32 徒然なるままに
- Vol.31 勉強ってなあに?
- Vol.30 京都の春
- Vol.29 正確な日本語?
- Vol.28 引っ越し、執筆、講演、そして引っ越し
- Vol.27 〇月×日
- Vol.26 It's not easy to write textbooks.
- Vol.25 Even a pig climb a tree when flattered!? 豚もおだてりゃ木に登る
Vol.23 ことばはむずかしい。
大学での講義やアプリコット出版主催の「児童英語教師養成講座」、その他いろいろな機会に講演及び講義をさせていただくことがありますが、その度に、自分の考えを正しく人に伝えることの難しさを実感します。人はあることを聞いても、自分のこれまでの経験を通じて理解しようとします。講演を聴いてくださっているさまざまなback groundを持つ皆さんに、どのような言葉や説明、図、例を示して話をするとわかってもらえるのか悩み抜きます。 講演でも講義でも話すことが目的なのではなく、皆さんに理解していただくことが目的だからです。特に、それまでみんなが当然と思っていたこと(私の場合は英語教授法)の定石を崩し、新しいことを示す時、その難しさを痛感します。それだけに、聞いてくださっている方々の目が急に輝き、「あぁ、そういうことだったんだ」と大きくうなずく顔を見たとき、本当に嬉しくなるのです。
日本の英語教育が効果を出していないのは、教師のみならず、誰もが周知しています。 でもどこが間違っているのかが具体的にわからない。しかし、どこが間違っているのかがわからないと改善のしようがない。私は、英語テキスト(Learning World シリーズ)の著者として、従来の日本の英語教育の問題点を一つ一つあぶり出し、なぜ間違っているのかを分析し、改善案を示し、それを皆さんに理解していただくことが自分に与えられた仕事だと思っています。
日本では英語を教える時に、“What is English”つまり、英語とはどんなものなのかを教え、「英語とは言語であって、コミュニケーションや思考の手段であること」を教えてきませんでした。私がたびたび講演でお話しする例を2,3挙げてみましょう。下記の問題は中学校でよく出てくる問題です。
■次の文を否定形にしなさい。
・Tom’s mother likes hamburgers.
・My sister lives in Hokkaido.
・Mr. Brown plays basketball.
・Mrs. Smith speaks English.
・Jim and I want a new computer.
この問題のどこが悪いのでしょう。 三人称単数現在の動詞の定番の問題が並んでいますね。
しかし、この問題は英語の規則のdrill であって言語の練習ではありません。解答者はトムのお母さんがハンバーガーが好きかどうか知らないし、ましてやTomってだあれ?
三人称単数現在の動詞の問題を出すなら次のように出すと、否定形にする必然性があります。
次の文を、否定文にする必要があれば変えた文を、変える必要がなければその文を書きなさい。
・My mother drives a car.
・January has 31 days.
・The sun goes around the earth.
・A male mosquito sucks human blood.
・The sun rises in the east and sets in the west.
・The school year starts in April in Japan.
・The school year starts in April in Australia.
次に関係代名詞の問題。
■次の2文を関係代名詞を使って一つにしなさい。
The man is our new English teacher.
He is wearing a black cap.
よくある問題ですね。 しかし、2文を1文にする必然性がありません。
この文を次のように変えたらどうでしょう。
A: The man is our new English teacher.
B: Which one?
A: The man who is wearing a black cap.
B: Oh, I see.
次に、高校生くらいのlistening (または readingでも可) の問題を例に挙げましょう。
『Headway 2』(Oxford University Press) の中から文を引用しました。
My uncle owns a general store in a small town north of Boston. The store sells a lot of things― bread, milk, fruit, vegetables, newspapers, tools, videotapes― almost everything! It is also the town post office. The children in the town always stop to buy candy or ice cream on their way home from school.
My uncle doesn’t go out of town very often. He doesn’t like to drive, so once a month he goes by bus to the next town and has lunch at a nice restaurant with some friends. He is one of the happiest men I know.
■従来の設問
1.Where does the uncle live?
2. What does the store sell?
3. What do the children buy at his store?
4. Does he drive a car?
5. How often does he go to the next town?
6. Why does he go there?
He is one of the happiest men I know. の文章には関係代名詞が省略されています。
正しい関係代名詞を入れて文を書きなさい。といった問題が従来の問題でした。でも、普通これを読む生徒は、このおじさんが何を売ろうが、どこに住もうがあまり興味がありません。ですが、このスクリプトの問題を次のようにしたらどうでしょう。
Do you think he is happy, too? If you think so why?
この質問で初めて生徒はこの文を自分に関係する文だと気づき、その理由を説明するために内容を理解し覚える必然性が生まれるのです。
限られた例でしたが、従来の英語教育の問題点(落とし穴)とその改善方法の一端をご理解いただけましたでしょうか? あまりよくわからなかった?…ごめんなさい。どう説明したらご理解いただけるか、また頭を抱えて悩み続けます。ことばはやっぱりむずかしい!